クロスプラットフォームのファイラーアプリ(サムネ表示付き)を作って売ろうとしたら、
「動画のサムネを出す」というだけのことで、ライセンスと特許の2つの沼に同時にハマりました。 😇
同じ沼にハマる人のために、用語から実務対応まで、できるだけ噛み砕いてまとめます。
⚠️ 筆者は弁護士ではありません。最終判断は専門家へ。これは「開発者がまず知っておくと事故らない」レベルの整理です。
まず、言葉がややこしい
最初にここで詰まる人が多いので、用語を揃えます。
| 用語 | ざっくり言うと |
|---|---|
| コーデック | 映像の圧縮方式。例:H.264, HEVC, AV1 |
| コンテナ | コーデックを入れる「箱」。例:MP4, MOV, MKV, TS |
| エンコード / デコード | 圧縮する / 元に戻す。サムネ作りは「デコード」だけ |
「箱」と「中身」は別、というのが地味に大事。
同じ MP4 でも、中身は H.264 だったり HEVC だったりします。

H.264 と HEVC は別物だよ
ここ超重要。
| 通称 | 正式名 | 出た年 | ひとこと |
|---|---|---|---|
| H.264 | AVC | 2003 | いちばん普及。互換性の王様 |
| HEVC | H.265 | 2013 | H.264の後継。同じ画質で容量ほぼ半分 |
HEVC = H.265 = H.264の次世代。名前が紛らわしいけど、別のコーデックです。
そして後で出てくる特許プールも別。HEVCの方が断然ヤバい、と覚えておいてください。
ハマりポイント①:ライセンスと特許は「別の話」
ここが最大の落とし穴。私も最初ごっちゃにしてました。
- 著作権ライセンス(GPL / LGPL) … ソースコードという“文章”の使用・配布の条件
- 特許 … H.264/HEVCという“発明(アルゴリズム)”を実装・販売する権利
この2つは完全に別の軸です。

衝撃の事実:FFmpeg自身が「ウチは特許の許諾はしてないから、各自でなんとかして」と公式に言っています。
つまり「LGPLだからライセンス的にOK」≠「特許的にOK」。
ここを混同すると、商用配布で事故ります。
ハマりポイント②:どのコーデックが地雷なのか
主要コーデックの特許状況を、リスク順で。
| コーデック | 特許プール | リスク |
|---|---|---|
| H.264 / AVC | Via LA(旧MPEG LA) | 🟡 低〜中(失効が進行中+少量なら無償枠あり) |
| HEVC / H.265 | Via LA + Access Advance +他 | 🔴 高(プールが分裂・無償枠が乏しい・未加盟者もいる) |
| AV1 / VP9 / VP8 | なし | 🟢 無し(ロイヤリティフリー) |
| MPEG-2 | 失効済み | 🟢 無し |
| JPEG / PNG / GIF | 失効済み | 🟢 無し |
ざっくり言うと:
- H.264:特許がどんどん失効していってる&少量配布なら無償枠がある。実害は小さめ。
- HEVC:無償枠が乏しく、しかも払い先のプールが複数。これが本丸。
- AV1/VP9:そもそも「タダで使えること」を目的に作られたコーデック。えらい。
- 音声(AAC等):特許あるけど、サムネは映像だけデコードするので無関係。
ハマりポイント③:「デコードだけ」「OS任せ」なら緩い、の意味
特許リスクの主役は 「自分がデコーダを“配布・販売”する」行為。
だから「誰がデコードするか」で、リスクの行き先が変わります。

サムネ生成はデコードだけなので、OSに投げれば
「自分はデコーダを配布してない」という形にできて、ベンダーの責任がぐっと軽くなる。これが「OS依存なら緩い」の正体です。
実際どう作ったか(実務編)
① GPL版のffmpegは“同梱しない”
配布するffmpegが --enable-gpl(x264/x265入り)だと、GPLバイナリの配布になって、対応ソース提供義務が発生します。
→ 配布物に含めないだけで解決。デコードは OpenCV内蔵のLGPL版FFmpegで十分でした(速度もほぼ同じ)。
② HEVCだけ「OSにやらせる」

| OS | HEVCサムネの出し方 | 特許の負担先 |
|---|---|---|
| Windows | OSのシェルサムネイル取得 | OS / Microsoft |
| macOS | QuickLook(HEVC標準対応) | OS / Apple |
| Linux | OS提供の手段なし → ユーザー任せ | ユーザー / ディストロ |
H.264は低リスクなので自前デコードのまま、HEVCだけOSに委譲。この切り分けが現実的でした。
③ Windowsの「HEVCビデオ拡張機能」問題
Windowsは標準でHEVCを持ってなくて、ユーザーが拡張機能を入れる必要があります。
- 公式版:有料(約¥120)。全機種で確実に入る。
- メーカー提供版:無料。ただしOEM機など対応機種だけ(自作機だとインストールがグレーアウトする)。
多くのメーカー製PCは最初から入ってます。アプリ側は「未導入を検知したらストアへ案内、なければアイコン表示で続行」にしました。
④ HEVC判定は“デコードせずに”やる
「これHEVC?」の判定は、コンテナを解析するだけで分かります:
- MP4/MOV … ISO-BMFF の box を見て
hvc1/hev1 - MKV … EBML の CodecID
V_MPEGH/ISO/HEVC - TS … MPEG-TS の PMT で
stream_type 0x24
フレームをデコードしないので、判定行為自体は特許セーフです。
まとめ(チェックリスト)
- [ ] ライセンスと特許は別軸と心に刻む(LGPL ≠ 特許許諾)
- [ ] GPL版ffmpegは配布物に入れない
- [ ] H.264:失効進行+無償枠で実害低め(自前デコードでもOK)
- [ ] HEVC:OSにデコードを委譲(Win=シェル / Mac=QuickLook)
- [ ] AV1/VP9は最初からフリー
- [ ] 規模が大きくなったら特許プール契約も検討、最終判断は弁護士へ
いちばん言いたいこと
「OSSライセンス的にOK」と「特許的にOK」は別物。
そして、サムネみたいな“デコードだけ”の用途は、
OSにデコードを丸投げするだけで、開発者の特許リスクを大きく減らせる。
「動画のサムネ出すだけでしょ?」と思ってた過去の自分に教えてあげたい。
コーデックの世界は、箱と中身、ライセンスと特許、エンコードとデコード…
ぜんぶ「別物」を意識すると、急に見通しが良くなります。
※ 本記事は特定製品の法的助言ではありません。実際の配布前には専門家のレビューを推奨します。